群馬で生まれ、群馬で育った地元企業の歴史やこだわりを紹介するコーナー。今回は、戦国時代から受け継がれてきた伝統の米糀（こめこうじ）作りで、みそや漬物、甘酒などを製造･販売する「株式会社糀屋」を紹介。米糀が完成するまでの工程やこだわりを取材した。米糀を使った甘酒が今や全国的な人気となっている同社。そんな人気商品を生み出した同社の秘密に迫る。

　「株式会社糀屋」は高崎市に本社を置く糀やみそ、漬物の製造販売会社。初代当主は戦国時代に箕輪城主の長野氏に仕えた武士だったが、武田信玄によって長野氏が滅ぼされたのを機に武士をやめ、1566年、旅籠（はたご）や裕福な農家などに、みそ作りに必要な糀や糀菌を販売する「糀屋」を高崎市元紺屋町に開業。これが同社の始まりだった。その後、糀の付加価値を高めるためにみそ作りに着手し販売を開始すると、その味のよさで評判になったという。明治の初頭になり、それまで高級品だったみそが一般家庭にも普及すると、需要も高まり年間120トンものみそを製造するまでに成長。糀屋は街のみそ屋として、地元の人々にとって欠かせない存在になった。

　昭和に入りスーパーが登場すると、食品メーカーがみその速醸技術を確立。短時間での大量生産が可能になった。しかし同社では伝統の製法を守り続け、地道に業績を伸ばし続けていくと1948年に法人化し、みそ以外にこうじ漬けや甘酒など、米糀を使った加工品の販売を開始した。その後、商品を全国へ展開させるために1985年頃から全国各地の物産展に出店していった結果、口コミで評判となり人気が拡大。中元や歳暮の注文が増え、売り上げも増加した。また、家庭でのみそ作りを普及させようと1987年から「みそ作り教室」を開催し、現在では年間1,300人が参加するほどの人気を集めている。

　近年では糀を使った調味料やスイーツのほか、江戸時代に販売していた甘酒を復刻させて話題に。今後は群馬県の食材を使った商品開発や、新たな商品ブランドの立ち上げも行っていくという同社。450年間受け継いできた伝統の技と時代に合わせた発想で、これからも新たな商品を届けてくれそうだ。

常温保存可能な無添加の甘酒作り

　添加物が入っていない同社の甘酒は冷蔵保存が必要な上、賞味期限も1か月程度だった。しかし取引先から常温で長持ちする甘酒の製作依頼を受け、マイクロ波による殺菌法を開発。これにより常温で6か月間保存できる甘酒の製品化に成功した。

家業に固執しない多角経営

　同社はこれまで、旅館やうどん屋などさまざまな事業を展開してきた。中でも、糀室やみそ蔵で使用する断熱材を開発し、そのノウハウを生かして1961年に設立した「株式会社関東ロックウール」は、年商50億円を超える企業に成長している。

■人気商品の甘酒で新商品を生み出そうと、チョコレート味やカレー味などさまざまな試作品を作ったことがある。結果、商品化されたのはコラーゲン甘酒だった。

■同社の事務所には330年前に作られたと伝わる「火伏稲荷」と呼ばれるほこらがある。200年前に1度組み直しが行われ、1989年にも修繕された。次の修繕は60年後の予定で、すでに宮大工に依頼済みとのこと。

■糀屋の当主は8代前から代々「藤平」と名乗っており、現在の22代目まで受け継がれてきた。先代からこの名を受け継ぐ際は、役所で戸籍変更の手続きを行い、本名を変更して跡を継ぐことになっている。

❶高崎市元紺屋町にある工場では、外部からほかの菌が侵入しないように衛生管理を徹底。また、糀菌は温度や湿度の変化に弱くデリケートなため、季節によって適切な温度になるように空調を24時間体制で管理している。

❷最初に、蒸した米を急激に冷ますために手で混ぜる。この工程により機械では出せないうま味や甘みが生まれる。その後、40度を超える室内で、米のひと粒ずつに手作業で糀菌を付けていく。付け終えたら布で包み、木箱の中で1日寝かせる。

❸丸1日寝かせたら、米をつぶさないように手で混ぜながら糀に空気を送り込んでいく。混ぜ終えたら木箱ごと棚に移し、米の状態を確認しながら温度と湿度を調整。発酵が均一になるように木箱の位置を何度も入れ替える。

❹その後、48時間～72時間かけて菌糸を繁殖させていく。こうして完成した米糀は、みそやこうじ漬け、甘酒などに使われる。同社の商品は本社1階にある店舗のほかにスーパーやインターネットの通販サイトからも購入することができる。

【取材協力】株式会社糀屋
本社／高崎市問屋町2-10-4　問い合わせ／0120-12-5028