群馬で生まれ、群馬で育った企業の歴史やこだわりを紹介するコーナー。今回は厳選素材とこだわりの製法を用いた手作り豆腐を製造する「有限会社群馬包装トーフ」をご紹介。今や人気ブランド豆腐に成長した「たまむらとうふ」を生み出した同社。かつて機械による大量生産を行っていた同社が手作り生産へ方向転換したワケや、「たまむらとうふ」の誕生秘話、豆腐作り対するこだわりなどを取材した。

　「有限会社群馬包装トーフ」は1949年に前橋市で「浅川豆腐店」として創業。街の豆腐屋としてスタートしたが、時代の流れとともにスーパーなどに豆腐や油揚げを卸す豆腐製造会社として規模を拡大していった。その後、1961年に大量生産が可能な第2工場を建設すると、1966年に「有限会社群馬包装トーフ」に改称。1976年には、本社と全ての生産機能を玉村町に移転した。「この頃は外国産の大豆を使って大量の商品を作っており、売り上げは伸びましたが、お客さんの顔が見えないことにジレンマを抱えるようになりました」と代表取締役の浅川直也さんは当時を振り返る。

　浅川さんは2006年に卸売業がメインだった先代の事業を引き継ぐと、機械による大量生産をやめ、玉村産の大豆や国産大豆を使った手作り豆腐の製造を開始した。「小さい頃、できたての豆腐や揚げたての油揚げを食べていて、これがすごくおいしかった。そのおいしさをお客さんにも味わってもらいたい」という思いから、2007年に自社ブランド「たまむらとうふ」を立ち上げ、工場併設の直売所で対面販売を開始。直売所のオープン日には1,000人もの客が訪れた。

　より多くの人にたまむらとうふを届けたいと2009年から販売車で移動販売を開始したが、最初は全く売れなかったという。そこで試食や販売ルートの工夫を重ねた結果、そのおいしさが評判となり売り上げは増加。取り扱い店舗も県外のスーパーや百貨店などに拡大していった。

　現在は豆腐以外に豆乳入りうどんやおからのメンチカツ、スイーツなどさまざまな商品も販売。今後も地域に根差した街の豆腐屋として、食卓においしい豆腐と笑顔を届けてくれそうだ。

手作りならではの職人の技

　機械に頼ることなく手作業で豆腐作りを行う同社では、凝固剤である「にがり」の量を職人が豆乳の濃度と温度から判断して加えている。この工程は、全ての工程の中で最も豆腐の出来栄えを左右するため、経験による勘と熟練の技が必要となる。

原料の大豆は全て手洗い

　豆腐や油揚げなどの原料になる大豆は1年を通じて全て手洗いしている。機械で洗うこともできる中で、こうした部分でも“手作り”にこだわっている。「人の手でやるとね、『おいしくなれ』っておまじないをかけられますから」と浅川さんは語る。

■桜の花と葉が乗った「春とうふ」といった季節限定商品や、直売所でしか買えない限定商品を販売することがある。中には「特製ぬかづけ」といった商品が並ぶことも。

■10周年感謝祭の際、チョコ味とキャラメル味の「とろなまゆば」を販売したが、あまり売れなかった。

■玉村や高崎、前橋、伊勢崎などを巡回している移動販売車には「たまホーク」という名前が付けられている。

❶直売所の「たまむらとうふ」に隣接している工場では、1日1,000丁もの豆腐を製造。看板商品の「たまざる」を始め、「たまもめん」「たまきぬ」といった豆腐のほか、油揚げや厚揚げ、がんもどきなどの加工品も製造している。

❷同社の製品には甘みが強く、玉村町でのみ栽培されている「ハタユタカ」を中心に、国産の大豆を使用。割れや虫食いのない豆を選定後、水洗いしてホコリや汚れを取り除いたら、1晩水に漬けて砕きやすくする浸漬（しんし）を行う。

❸水を含んで軟らかくなった大豆を機械でひいていく。このとき、気温や豆の状態を見ながら水を足して適切な濃度に調整する。砕いた豆である「呉（ご）」を釜で加熱後、豆乳とおからに分離し、豆乳ににがりを加えて凝固させる。

❹凝固した豆腐をふんわりと盛りつけた「たまざる」や「たまよせ」を始め、箱型を使って圧搾、形成した「たまもめん」「たまきぬ」など、手間暇かけて完成した同社の豆腐は、大豆の甘味を感じる濃厚な味わいで多くの人の心をつかんでいる。

【取材協力】有限会社群馬包装トーフ
本社／玉村町藤川91-1　問い合わせ／0270-64-5102