群馬で生まれ、群馬で育った地元企業の歴史やこだわりを紹介するコーナー。今回は国内唯一の、ウクレレの一貫生産・量産メーカー「三ツ葉楽器株式会社」をご紹介。1950年代〜1960年代のハワイブームに始まり、今なお多くの人が魅了されるハワイアン・ミュージックに欠かせないウクレレ。その作り方や、作り手としての思い、2015年に「本場」ハワイに工場を広げた理由などを取材した。

　三ツ葉楽器は戦後間もない1948年、前橋市平和町で「三ツ葉工芸」として始まった。当時は学校教育で採用された木琴を製作。折からのハワイブームもあり1955年頃からウクレレの製造を始めた。1960年代、エルビス・プレスリー主演映画「ブルー・ハワイ」や、加山雄三さん主演の「若大将」シリーズで、日本でのウクレレ人気が急上昇、次々に売れたという。1964年に「木工団地」といわれる一角の現在地に本社・工場を移し、社名も変更。ブームの衰退と共に厳しい時代が続いたが、木琴に替わり手がけるようになった家具製造が会社を支えた。

　同社のウクレレは、合板を使い価格を抑えながらも、厳選した素材と高精度の組み立て技術で、高い評価を受けている。そこには前橋市の気候も一役買っている。夏の高温多湿と冬の寒冷乾燥で、木材はねじれや反りといった個性を早くあらわにする。それが分かることで、熟練の職人が個性を生かせるように部材を選ぶという。

　「フェイマス」ブランド向けOEMが中心だったが、1999年に自社ブランド「ゼファー」を立ち上げ、演奏家の要望によるフルオーダーやセミオーダーにも対応している。大澤茂代表（71）は、「60年以上ウクレレを製造してきた経験を受け継ぎ、工夫を続けるスタッフと、前橋の風土があってこそ、時代と共に変化する『音』への要請に柔軟に答えられる」と胸を張る。

　「こどもウクレレ祭」を毎年、夏に実施（今年度は休止）したり、学校の授業向けにウクレレを貸し出したりと、普及活動も積極的に行っている。また、2015年、ウクレレの生まれた地・ハワイに現地法人を創立。本場の最新情報を取り込み、「群馬発のウクレレ」をさらに発展させていく。

生産台数日本一

　現在のウクレレ生産台数は月間1,000台～1,200台。1960年代のウクレレブームには多くの会社がウクレレを作ったが、現在もこの規模で木材から完成品まで一貫して作れるのは国内で三ツ葉楽器だけになったという。

技術が支えるお手頃価格

　ハワイ産のウクレレは、ボディを1本の木から作るものが多く高価になりがち。三ツ葉楽器では薄い合板を自社製作、伝統的なニカワ接着を随所に施し、高い精度で工作して強度を維持。軽く扱いやすいウクレレを、2万円台から販売できる。

■サザンオールスターズのベーシスト、関口和之さんはウクレレも得意だが、最初に手に取ったのが三ツ葉楽器製造のウクレレだったそう。他にも岡田央さんら多くのプロ奏者が、同社のウクレレを使っている。

■テレビ番組の企画でシンガーソングライターの矢井田瞳さんが同社を訪れ、即興で「みつばのうた」を書き下ろし工場で演奏した。

■家具部門の製品は、いわゆる「隙間家具」の先駆け。幅15cmの収納家具など約600種類の家具がカタログに並ぶほか、一品物の収納家具も引き受ける。

❶ウクレレのボディの側板は、薄く加工した板に熱を加えながらプレスし、形作る。曲線に合わせた補強具を接着し、別に加工した表板と裏板を貼り合わせて固定する。音の響きが決まる重要な工程だ。

❷ネック部分は1本の木材を斜めに切り、角度を付けてニカワで接着。さらに部材を重ねて貼り合わせる。大型の機械でおおよその形を仕上げた後は、手作業でやすりを掛け、手になじむ滑らかな形に整えていく。

❸指板やブリッジなどを取り付け、一部をマスキングして塗装を行う。塗装も手作業で均一に塗っていく。塗料を十分に乾燥させた後、弦を巻くペグなどの部品を取り付け、弦を張って箱に収め、出荷する。

❹自動化しているのはごく一部で、ほとんどが手作業。だからこそ各工程でスタッフの目が通り、「音にゆがみがなく、お手頃な価格」のウクレレが完成する。工場での直販はしておらず、取り扱いのある楽器店で購入できる。

【取材協力】三ツ葉楽器株式会社
本社／前橋市上大島町97　問い合わせ／027-261-0141