群馬で生まれ、群馬で育った企業の歴史やこだわりを紹介するコーナー。今回は大豆の産地として知られる前橋市粕川町で、こだわりの手作り納豆「粕川なっとう」を製造する「株式会社上州農産」をご紹介。自社栽培の大豆を中心に国産大豆を使用し、“理想の納豆”を追い求める同社。創業のきっかけや「粕川なっとう」のおいしさの秘密、納豆作りに対するこだわりなどを取材した。

　「株式会社上州農産」は2012年に前橋市で創業した納豆製造会社。会社設立は、納豆好きだった現社長の松村省兒さんが、自ら育てた大豆で納豆を作り始めたことがきっかけだった。あるとき、この納豆を近所に配ったところ評判になり、商機を感じた省兒さん。2010年から自家製納豆の商品化を進め、2012年に「株式会社上州農産」を設立すると納豆の直売を開始した。粕川産の大豆や赤城南麓の水を使って作られた「なっからうんめぇ! 粕川なっとう」は、豊かな香りと濃厚な旨みで地元を中心に口コミで人気が拡大。その後県内のスーパーでも販売を開始すると人気商品へと成長していった。

　そんな中、省兒さんの息子で現専務の徳崇さんが2014年に入社。徳崇さんは前職でフィリピンに勤務していた際、現地で食べた納豆の味に閉口してしまった経験があった。そこで「海外にもおいしい納豆を届けたい」という思いから新商品の開発に着手。試行錯誤の末、2016年に常温で流通できる「水で戻す納豆」を完成させた。同商品は水を加えると納豆になるドライフードで、納豆本来の糸引きと味わいを再現。海外の邦人向けサイトや訪日外国人向けに国内の観光地で販売すると、海外在住の日本人だけでなく外国人からも好評を得た。また栄養価の高さと常温での長期保存が可能なことから、非常食としても注目されている。

　現在同社の納豆は県外に販路を広げ、ネット通販も行い、多くのファンを獲得している。徳崇さんは「現在は贈答品や手土産としても反響をいただいています。今後もおいしい納豆を作って、もっと地元をPRしていきたい」と抱負を語った。これからも“なっからうんめぇ”納豆を食卓に届けてくれそうだ。

大豆の全量生産を目指す

　同社では現在、畑を創業時の5haから20haに拡大して大豆を栽培しており、今後全ての商品を自社産の大豆に切り替えていく。納豆製造会社が原料の大豆を全量生産するケースは全国的にも極めて珍しい。

「水で戻す納豆」がさまざまな賞を受賞

　「水で戻す納豆」は、新たなビジネスに挑戦する起業家や事業者が集う「第4回 群馬ベンチャーサミット2016」を始め、優れた新商品や新サービスの事業プランに送られる「ぐんぎんビジネスサポート大賞2016」など、さまざまな賞を受賞している。

■高級ペットフードブランド「ドットわん」で人気のフリーズドライ納豆は、同社が製造している。

■職場体験に来た納豆嫌いの小学生が同社の納豆を食べて納豆嫌いを克服し、感謝の手紙をもらったことがある。

■直売所では、納豆のトッピングとして使えるオリーブオイルや青さのりを始め、粕川なっとう専用の高級本枯れ節といった商品も販売している。

■同社は「全国納豆協同組合連合会」に加盟している納豆製造会社の中で、最も新しい納豆製造会社である。

❶同社の納豆作りは大豆の栽培から始まる。町内に点在する約20haの畑で、「納豆小粒」や大粒の「里のほほえみ」といった品種の大豆を生産。自社産以外の大豆は、全国各地から厳選して仕入れた国産大豆を使用している。

❷工場では割れや皮むけのない豆を丁寧に選定し、水洗いしてから1晩水に漬けて軟らかくする。その豆を窯に移し、低圧でふかしていく。この工程で大豆が持つうま味と、もちっとした食感を引き出していく。

❸ふかし終わったら煮豆に納豆菌をかけて容器に盛り込んでいく。煮豆が入った容器を温かいうちに発酵室へ移し、18時間かけて発酵を進める。その後徐々に冷やして発酵を止め、出荷に合わせて梱包していく。

❹こうして1日3,000個の自社製品を製造。品質の劣化を防ぐため、温度管理された冷蔵車を使って全国各地に配送される。こだわりの大豆を使って職人が手作りする納豆は、全国で多くの“納豆ファン”を魅了している。

【取材協力】株式会社上州農産
本社／前橋市粕川町西田面126-6　問い合わせ／027-212-6300