群馬県民なら誰もが知っているあんなものやこんなもの……。それらを製造する地元企業の歴史やこだわりを紹介するコーナー。今回は、ブドウの栽培から、ワインの醸造・販売までを行う「奥利根ワイン株式会社」をご紹介。オリジナルワインの「奥利根ワイン」が誕生するまでのエピソードや、こだわりを取材した。今や多くのワイン通に愛されている奥利根ワイン。そんな人気ワインを生み出した同社の秘密に迫る。

　「奥利根ワイン株式会社」の前身は現会長の井瀬賢さんが1984年に沼田市で開業した酒販店で、当時は地酒が豊富にそろう店として観光客でにぎわっていたという。そんな中、客から「地元のワインはないの?」と聞かれたことをきっかけにワイン作りに着手。地元名産品のリンゴに注目し、3年かけてアップルワインを完成させた。その後、1991年に「奥利根ワイン株式会社」を設立。アップルワインの販売を開始すると、味のよさからすぐさま評判になった。しかしこれだけでは商売にならないと、1996年から外国産のブドウでワイン作りを開始。このワインも好評だったが、同社には“ある思い”があった。

　同社がかねてから目標にしていたのが、ブドウの栽培から醸造までを一貫して行う「ブティックワイナリー」として、“地場産ワイン”を作ることだった。その目標を実現するために、2000年に現在の土地を購入。荒れたこの土地を開墾し、2002年に「奥利根ワイナリー」を開設しブドウの植え付けを開始したが、日本の高温多湿で雨の多い環境下ではブドウが病気になりやすいため、最初は困難の連続だったという。

　試行錯誤の末、ようやくブドウ栽培のノウハウを確立すると、念願の地場産ブドウでのワイン作りをスタート。日照時間が長く、水はけのよい土地で育ったブドウから作られた同社のワインは、芳醇（ほうじゅん）な香りと深いコクが特徴で、長く余韻を楽しめると人気が拡大。現在では12種類のワインを醸造しており、中でも自社栽培のブドウを100%使用したワインの「I’m（アイム）」は全国各地で絶大な人気を誇っている。今後はブドウの品種を増やし、新商品の開発も行っていくという。群馬の地で育まれた上質なワインは、これからも多くのワイン通の舌を楽しませてくれそうだ。

ブドウ畑の中心に位置したワイン醸造所

奥利根ワイナリーの醸造所はブドウ畑の中心に位置しているため、来場者は広大なブドウ畑を通って醸造所まで向かう。その間に自然豊かな景観を楽しんでもらえるように、電線を来場者から見えなくするなどの工夫がされている。

こだわりの樽仕込み熟成

　ワインの熟成にはフレンチオークやアメリカンオークで作られた木製の樽（たる）を使用している。この熟成法は手間と時間がかかるため、一般的に高級ワインに用いられることが多い。同社が作るワインの複雑な味わいの秘密は、こうした熟成法にもある。

■併設しているレストランでは、代表取締役の金井さんがシェフとして厨房に立っている。地元の新鮮な高原野菜をたっぷりと使ったパスタやグラタンなどが人気で、どの料理もワインとの相性は抜群だ。

■ワイナリー内のテイスティングルームでは、ここでしか買えない少数生産の限定商品を販売することがある。

❶丘陵地帯の広大な敷地には、ワインの原料となるシャルドネ、メルロー、ピノ・ノワール、リースリング、ピノ・グリといった7、8種類のブドウの木、約1万本が植えられている。これらの木々の状態は毎日チェックし、栽培管理を徹底している。

❷9月下旬から10月にかけてブドウを収穫。機械で軸を取り除いた後、果汁を果皮、種子とともにタンクに投入し発酵させる。その後、圧搾機にかけて果皮や種子をワインと分離し、樽やタンクで熟成させる。

❸熟成の工程で、内部に澱（おり）と呼ばれる沈殿物が発生するため、上澄みだけを別の容器に移し替える「澱引き」を何度かくり返す。熟成したワインは濾過処理を行って不純物を取り除いた後、瓶詰めし、さらに熟成させる。

❹瓶内熟成が終わったら、それぞれのワインの銘柄が印刷されたラベルをボトルに一枚一枚手作業で貼っていく。こうして完成した奥利根ワインは、同社のワイナリーやホームページのほか、地元の酒販店などで販売される。

【取材協力】奥利根ワイン株式会社　本社／昭和村糸井6843
レストランの問い合わせ／0278-50-3070