群馬県民なら誰もが知っているあんなものやこんなもの……。それらを製造する地元企業の歴史やこだわりを紹介するコーナー。今回は本格的なピザづくりに欠かせない、ピザ窯を製造･販売する「増田煉瓦（れんが）株式会社」をご紹介。煉瓦メーカーがピザ窯を作るまでに至ったエピソードや、同社のこだわりを取材した。今や日本を代表するピザ用石窯のトップメーカーと言っても過言ではない同社。その秘密に迫る。

　「増田煉瓦株式会社」は前橋市内に本社を置く煉瓦製品の販売会社で、1917年に煉瓦製造と、煉瓦造建築物を施工する「増田煉瓦工場」として開業。当時、かまどや風呂、倉庫などは煉瓦造りが多く、同社は人々の生活に欠かせない存在だった。しかし、1923年に発生した関東大震災の影響で、耐震性能の高い鉄やコンクリートといった建材に需要が移り変わっていった。1950年に「増田煉瓦工業株式会社」へ組織変更する頃には安価な外国製煉瓦も流通し始め、状況はさらに悪化。1989年には自社での煉瓦製造を中止し、海外の業者に委託を余儀なくされた。

　1994年、会社経営は危機的状況に陥っており、このとき入社した現代表取締役の増田晋一さんは「煉瓦に付加価値をつけて勝負しなければ会社に未来はない」と危機感を覚えたという。その後、1998年に増田さんが代表取締役に就任すると、社名を「増田煉瓦株式会社」に変更。そんなとき知人から「ピザ窯を作れないか」と相談され、依頼を受けることに。増田さんは煉瓦製造で培った知識と技術を生かせると思っていたが、ピザ窯作りは難航。独学で試行錯誤しながら1年かけて完成させた。そしてその経験を生かし、1999年からピザ窯の受注生産を開始。同社のピザ窯は蓄熱効果が高く、窯の中のどこにピザを置いてもきれいに焼き上がると業界内で話題になり、その評判は口コミで広がっていった。

　現在は、住宅や店舗の外壁施工などと並行して石窯を製造。国内だけでなく海外からも注文が増加している。今後は石窯を使った新たな取り組みも検討中だという。煉瓦の特性を生かし、独自の製品開発を続ける同社の今後から目が離せない。

本場イタリアの職人も驚いた高い技術力

　ピザ窯の本場であるイタリアでは、最初に砂でドームの形を作り、その上に煉瓦を積んで固めて作る。しかし同社では、砂を使わずに煉瓦をドーム形に積み上げる方法を採用。その高い技術力にイタリアの職人も「とてもまねできない」と舌を巻いたという。

がんばる中小企業・小規模事業者300社に認定

　地元企業と共同で、石窯に最適な小麦粉やピザ生地の開発・販売を行っているほか、ピザ職人を育成する研修も積極的に開催。これらの取り組みが認められ、2015年に経済産業省が選ぶ「がんばる中小企業・小規模事業者300社」に認定された。

■本社には完全予約制で“石窯パン”を販売する「石窯パン工房」を併設している。
■日本料理店からの注文で、ウナギ用の石窯を作ったことがある。
■同社の企画で、西暦2000年を記念したメッセージ入りの煉瓦を群馬県庁昭和庁舎の駐車場に敷き詰めた。
■前橋市で行われる、“石窯ピザ”のNo.1を決めるイベント「キングオブピッツァ」は同社の石窯を使用している。

❶本社に併設されている工場では、ガス式やまき式などの石窯を、年間約100基生産している。石窯の主要部分は、顧客の要望に合わせて職人が全て手作業で製作。そのため石窯を1基完成させるのに約3か月かかる。

❷石窯の素材は日本国内では手に入らない海外製の耐火用煉瓦を使用。これらを石窯の大きさに合わせたサイズに切り出し、ドーム状に積み上げていく。煉瓦を一定の間隔で積み上げていく技術はまさに職人技だ。

❸積み上げた煉瓦の上から、粒状の煉瓦を混ぜたモルタルを塗り重ねていく。窯の高い蓄熱性能は、この工程によって生み出される。また、窯から料理を取り出しやすいように床部分に緩やかな勾配をつけるなど、使用者の視点に立った配慮も。

❹ガス式、まき式の石窯にそれぞれ必要な部品を取り付けた後、最後に外装を仕上げる。こうして完成した石窯は、日本国内だけでなく、台湾や韓国、ロシアといった世界各国でも活躍している。

【取材協力】増田煉瓦株式会社　本社／前橋市石倉町4-18-11
石窯パン工房の問い合わせ／027-251-5824